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■ 9月21日 ■
 何事もない。
 本来的な意味で言うならば、そもそも日常に変化が訪れることは決してないのが必然だった──もし何らかの変化があったとしたら、その瞬間に日常は日常として成立しなくなってしまうから。
 だからというわけでもないのだろうが、今のこの世界で、激しい変化を求める人間は限りなく少なかった。終局の到来は確実で避けようがなく、防ぎようもないことは既に周知の事実だ。抗う気持ちが残されている人間もいるらしいと拓也は聞くが、実際にそういった集団と接触を持ったことはなかった。今後一切、そのような機会があるとも思えない。
 誰もが優しい気持ちで、静かに訪れる明日を求めている。
 世界の終わりに向けて、人々の気持ちは次第に綺麗になっていく。

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テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

■ 9月20日 ■
 各国政府それぞれによって世界終局宣言が発令されてから、地球全域は記録的な──と言うか、まあ、終末的な──異常気象に見舞われている。日本に限定すれば例年より遙かに早く寒波が押し寄せ、全国的に積雪と厳寒が続いていた。
 気象は荒れ狂っている。終局に向けて平穏を手に入れようと藻掻く人間を試すように、予測も予報も裏切り続けた。それと並行するように、これまで確認されたことのない異常な病気も次々と発生したことで、世界中は未曾有の混乱に見舞われている。
 ハピネス症候群などはまだましな方で、伝染性殺人偏執狂症候群や、肉体表裏転換症候群などは、自分や他人をあからさまに生命の危機に晒す病気として恐れられていた。
 中でも特に恐れられているのは、天使化症候群と呼ばれる病気だった。
 これに感染すると背中から純白の翼が生えて、常人の数倍にも匹敵する筋力と不死に近い体を手に入れてしまう。症状がこれだけだったら、天使化症候群は人類にとっての福音となったのかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 あまりにも明確すぎる、その理由によって。
 天使化症候群は、終局を迎えつつある世界の中でも、最も恐ろしい病魔として広く認知されるようになったのだ。

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■ 9月19日 ■
「拓さん、これ、食べられないよ」
 冷蔵庫の扉を開けっ放しにして、美雪が呟く。室内でもセーラー服の上から褞袍を着込んだままの姿は滑稽ではあったが、この場にそれを笑う人間もいない。ぶうぶうと不満を呟くような音を漏らし続け、冷蔵庫は逃げていく冷気を惜しむようでもあった。
 未開封のおにぎりを次々と点検し、少女は困ったような微笑みを浮かべた。怒ることも苛立つこともできないハピネス症候群の患者である美雪にとって、今できるのはただひたすらに困ることぐらいのものだ──食糧難は全世界的な問題ではあったが、だからといって見過ごしていい問題でもない。
「……賞味期限、切れてるよ」
「食えるよ。いいから、冷蔵庫閉めろって。電気代勿体ないだろ」

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■ 9月18日 ■
 終わらない冬に抱かれて、体は芯から酷く冷えている。
 体の芯が凍り付きそうだった。
 雪景色は純白で表現されるはずなのだが、どうにも秋川拓也の目に映る雪景色は黒々としている。黒ずみ、灰色がかって、情緒の欠片も窺えはしない。実際に誰が見ても同じ景色として映るのか、それとも単純に自分がひねくれているだけなのか、拓也には判断のしようもなかったが。道路の脇には掻き出された雪が積み上げられ、泥や埃と混ざって無残な姿を晒している。
 靴底が甲高い音を立て、一瞬躓きそうになった。ほんの少しだが気温が上がったらしいと聞いたので、、そのせいで雪が溶け出したのかもしれない。
 意味のある歩みではなかった。目的地もなく家を出て、当然のように何も果たせず帰宅の途に就いているに過ぎない。意識は散漫で、視界も定まっているようなぼやけているような、靄の中を手探りで歩いているような感覚だった。実際雪は未だ降り続いているので、視界が悪いことは確かだが。
 それでも、拓也は見逃さなかった。
 数メートル先の路上、電信柱の足下に誰かが蹲っている。

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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