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■ 11月21日 ■
 肉が爆ぜ、弾けた。
「……!」
 声が出ない。
 血も出ない。
 大量の黒い粘液質のオイルが溢れ、見る間に無垢の白雪を汚していく。
「……!!」
 雪の積もる道路に倒れ込む。
 視界の中で、軒先にぶら下がる首吊り死体が踊っていた。
 沢山の家で沢山の人が死んでいく。
 まるでそうすることが自然であるかのように、当たり前の顔で死を受け容れ始めている。
 何かが──取り返しのつかない何かが、ずれ始めていた。
 世界でも。
 自分の中でも、何かが。
「ぐぅ……!!」
 苦悶に呻き、襲い来る激痛に体を丸める。倒れ込んだ雪の冷たさが肌を刺すが、むしろ今はそれすら心地よく感じられるほどだった。しばらくの間収まっていたはずの痛みが、再び全身を支配している。

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■ 11月20日 ■
「……あの、美雪って女の子。一人にしていいの?」
「ああ。一応、俺が帰るまでは家から出るなって言ってあるしなあ。友達の家に行くって言い残してきたから。何か、すげえ顔でクロスワード解いてたから、大丈夫だろ」
 自分でも意味のわからない理由を付け足して、拓也は飲みかけのコーヒーを僅かに口に含んだ。酸味と甘味が熱を伴い舌に広がる──と言えるほどの食通であるはずもなく、砂糖が入ってないとこんなに不味いのかと感心した程度だ。
 ノゾミの部屋で、二人向き合ってぼそぼそと話し合う。声を潜める必要もないのだが、何故か気付くと小声になっていた。何となく、とてつもなく悪いことをしているような気分だったのだ。
 ──相談に乗ってるだけだからな、俺は。

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■ 11月19日 ■
 給食のごはんの中に、変な虫を入れられた。

 体育のとき、体操服を隠された。
 先生に怒られて、泣きながら見学してた。

 教科書はすぐになくなった。
 ぐしゃぐしゃにして、ごみ箱に捨ててあった。
 先生に怒られたのは、私だった。

 休み時間、ボールをぶつけられた。
 痣ができるぐらい強くぶつけられたこともあった。
 みんな笑っていて、止めて、止めてと言っても止めてくれなかった。
 先生は止めなかった。
 みんな元気があっていいな、と笑っていた。

 写生会のとき、画用紙を取り上げられて、絵の具を滅茶苦茶に塗られた。
 新しい画用紙を買ってやり直したら、先生は、学校からもらったものはどうしたの、と言って怒った。

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■ 11月18日 ■
 拓さんが、武器を買ってこなきゃな、と言っていました。
 私達の住む街の中で、噂の歩く死体が見つかったそうです。病気のせいで、死体が動き回って、私達を襲ったりするのだと言っていました。
 拓さんは、何だかホラーゲームみたいだな、と言っていました。その後拓さんは、近所のホームセンターでゴルフクラブが安売りしているからと言って、一人で出かけてしまいました。途中で襲われたらどうするのって聞いたら、そのときは全力で逃げるから大丈夫だよ、と笑っていました。確かに拓さんは妙に足が速いので(昔陸上部に誘われたこともあるけど、面倒だから逃げたそうです。きっと逃げ足だけ速いんだと思います)、私が着いて行って足手まといになるよりはいいのかもしれません。

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■ 11月17日 ■
 通っていた学校の図書室は、いつも通り薄ら寒く、いつも通りほとんど無人だった。
 指定席となった隅のテーブルに着いて、ノゾミはただ黙々と本を読んでいる。特に面白いと思ったことはない。ただ、本を読むのが好きだった──できるだけ難しくて、わけのわからない本を読むことが。
 それが格好いいことなのだと、子供の頃からそう思っていた。今はほとんど意地のようなものだ。散々海外の古典、名著を読み漁り、それなりの知識も身に付いた。だからといってそれを披露する機会があるわけでもなく、多くの物語は無意味に脳の中へと溜め込まれている。腐ることはないが、活かされることもない。
 ──別に、好きじゃなくてもいいじゃん。
 誰かに言い訳するような心地のまま、胸中で嘯く。
 国語は得意だった。
 だが、好きでもなかった。むしろ率先して嫌いだったのだと思う。読書が趣味なのだと思われるのも嫌で、できるだけ人に隠れて本を読むようにした。
 教師や友人に隠れてページをめくるのは、惨めでもあったし、愉快でもあった。

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■ 11月16日 ■
 ごうごうと。
 燃え盛る火炎が夜空を焼く。
 無意味に明るい星の光が不愉快だった。手の届かないところでいいご身分だ、と皮肉にもならない心地で毒突きながら、洋介は無意味とわかって巡視を続けている。うずたかく積み上げられ、油をまかれ焼かれる死体達は、全てまだ『生きていた』ものだ──頭部を破壊してもまだ動き回るほど死体活性化症候群が進行してしまったものか、既に四肢を吹き飛ばされて藻掻くしかないものか。彼らは怨嗟の声を上げるでもなく、苦悶に身を捩るでもなく、ただ無意味な筋肉の蠕動だけを続けている。死体だから痛みを感じることはないし、熱によって気道を焼かれたところで呼吸困難になるわけでもない。
 ただ、皮が剥げ、肉が炙られ、骨が焦げるだけ。
 焼かれて灰になっていくだけだ。
 肉の焼ける悪臭が鼻を突く。
 特にひどいのは、髪の毛が焼ける臭いだった。
 今更特別なことでもなかったが──それでも、不快になるのはしかたがない。

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■ 11月15日 ■
 どこからか声が聞こえる。男でも女でもない、機械で合成したような声。抑揚がなく音程もない、平滑な声だった。もちろん拓也にはそれが幻聴だとわかっていた──頬の棘が飛び出し、左腕から無数の機械部品が溢れ出すようになってから、ずっと聞こえ続けていた幻聴だった。拓也の願望を投影したものかもしれないし、全く無意味な妄想の産物かもしれない。だが少なくとも、これは何らかの奇病によるものでないという確信だけはあった。
 幻聴だ。
 幻聴か──もしかしたら本当に、神様が話しかけてきているのかもしれない。
「……妄想も、そこまで行けば病気みたいなもんだけどな」
 自虐的に笑い、拓也は自分にしか消えない声に耳を澄ませた。内容はいつも同じだ──問いかけ、そして、答えを待つ。拓也が何も答えない限り、延々と同じ問いを繰り返した。一度も答えたことはないので、もう何千回同じ問いを受けたかもわからない。何千回無視しても、声の主が諦めることはなかった。
 ──あなたは。
 ──あなたの世界を救えますか?

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■ 11月14日 ■
 何もかも、全てが狂い始めていた。
 足音もなく、気配すらなく、しかし滅びは徐々に世界を侵食しつつある。ノゾミはそれを十分理解していたし、どれだけ抵抗しても無駄だと諦めていた──諦めていたつもりだった。だが、いざ自分がその滅びに晒されてみると、所詮つもりはつもりでしかなかったことを思い知らされる。
 滅びは──終わりは。
 人間の心を、あまりにも容易く破壊する。
「ええと……どちらさまですか?」
 おずおずと問いかける声。
 聞き慣れた声。
 最初は冗談だと思っていた。
 だが違った──声の質が、表情が、怯えた目が。全て、冗談などではないことを物語っていた。

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■ 11月13日 ■
 何で、自分には何もできないのだろう。
 悔しい。
 とてつもなく。
 泣いても意味がないのはわかっているけれど、涙が溢れるのはどうしようもない。
「……拓さん」
 閉ざされた部屋の中。
 耳障りな、機械の軋む音。
 扉の隙間から、時折白い煙が漏れてくる。
「……拓さん──」
 部屋の中で何が起きているのか、美雪には想像もできない。
 想像もできないことが、とてつもなく悔しい。

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■ 11月12日 ■
『あー……隊長、通信届いてますか? こちら加々美隊。捜索任務中ですけど、全然生存者なんかいないっすよ──』
「あぁ? ざっけんなよ、いないじゃねえだろ、いないじゃ。ゾンビもいねぇ、生存者もいねぇじゃ、この辺りは完璧無人だったってことになるだろうが」
『──いや、マジで無人みたいなんスよ……天使化した──ないみたいだし。あー……──、──……この辺、ちょっと電……、──いっすね。届いてますか? こ──、……美隊。生存者、現時点で確認できません』
「……本気かよ──どうなってんだ、ここは」
 髪を掻き上げ、表情をしかめて周囲を見回す。
 人気のない街。生きている人間が自分達しかいないかのような、そんな錯覚を覚える。事実部下が伝えてきた通り、この近辺に足を踏み入れてからというもの、生存者は未だに発見できていない。非常時という言い訳を盾に家宅侵入まで試みたが、どの家も綺麗に無人だった。
 ──冷蔵庫に、結構食料が保管されてたのは助かったけどな。
 無人ならば、徴収しても文句は言われないということだ。洋介はこういったときの判断がとにかく拙速だった。探索任務には生存者発見が第一ではあるが、食糧確保も兼ねている。

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プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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