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■ 12月26日 ■
「ついに……ついに見つけたんだな。俺達――手に入れることが、できるんだな」
「うん……うん。拓さん、私達、やったんだね……」
「ああ――神様はまだ、俺達を見捨ててなかったんだ」
 感涙にむせびそうになる一歩手前で踏み止まり、拓也は眼前にそびえる建造物を見上げた。決して大きくはない──むしろこぢんまりとした個人商店なのだが、今やその存在感は二人の中で外観以上に膨れ上がっている。未だ入り口の自動ドアが割られていない奇跡と、更には営業中と書かれた紙が貼られた奇跡の両方を噛み締めて、拓也と美雪は自然に力強く拳を握り締めていた。表情を引き締め、全身を包む緊張に身を委ねる。一歩を踏み出す勇気が芽生えるその寸前に、美雪は感極まった声で呟いていた。
「やったね拓さん……これでもう、思い残すことなんかないよ……」
「馬鹿野郎!」
「あぅっ」
 軽く、だが確かな強さを込めて美雪の頭頂部にチョップを振り下ろし。
「まだだ、まだ俺達は終わってないんだ……!」
 拓也は、滔々と言葉を紡ぎ出す──歌うように穏やかで、宣誓のように高らかな声。美雪の肩を掴み、しっかりとその渦巻き模様が浮かぶ双眸を見詰めて、一語一語を噛み締めるような心地のままに先を続ける。
「いいか美雪。俺達にはまだ、未来がある。残された時間は少ない。その少ない時間だって、ちゃんと全うできるかどうかわからない。それでも俺達には未来があるんだ──あと一秒か、一分か、終局の直前までか。確かに、未来がある。その瞬間まで、思い残すことばっかりでいいんだ」
「──拓さん……!」
 ふるり、と肩を震わせて、美雪は目尻に浮かぶ涙を拭った。悲しみではなく、歓喜の涙だ──こんなにも強く勇気のある少年と共に生きていけるという喜びが、自然に涙腺を刺激した。
 並び立つ自分もまた、強くあるべきだと。
 そう固く信じて、美雪もまた眼前の少年を正面から見詰め返した。
「ごめん、私が間違ってたよ……拓さん、私達はここから始まるんだね!」
「ああ──そうだ! わかってくれて嬉しいよ……さあ美雪、善は急げだ。行こう。そして──俺達の希望がまだ確かに残されていることを、確かめるんだ!!」
「うん……行こう、拓さん!!」
 自動ドアを無理矢理手でこじ開け。
 二人は店内に踏み入ると、何よりも強靱な意志の下に一歩進んで──ガラスケースの中に陳列された、ケーキの物色を始めた。
「俺はレアチーズ──いや、ここは手堅くショートケーキも……くそ、ベリータルトも捨て難い……!!」
「ふふ、拓さん……こういうときはね、直感のままに選ぶが吉なんだよ。だから──私は、モンブランで!」
 終局が近付いても、まだ営業しているケーキ屋を見つけるのは生半可なことではない。
 たとえ少し遅めのクリスマスでも、祝う気持ちに変わりはない。
 全てを否定してしまう前に、今目の前にあるものの大切さを見詰め直せば、いくらでも世界は広がっていく。
 滅びの雪をかいくぐり、辿り着いたケーキ屋で。
 散々悩みに悩み尽くした彼らが自然と知ったのは、そんなことだった。
 そんなことで、十分だった。

 世界が滅びるその日まで、あと十三日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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