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■ 1月2日 ■
「──ビートルズって知ってるか?」
 突然声をかけられたことよりも、問いの内容そのものに。
 美雪は何度か目を瞬かせ、寝袋の中でもぞもぞと身動ぎした。
 歩き続けた果て、登山用具を売る店に侵入し、勝手に防寒具を幾つか借り受けた。寝袋と毛布を引っ張り出し、店の隅に積んであった商品を除けてスペースを作って、そこで一晩を過ごすことにした──壊した入り口は拓也の鉄で塞いだが、いつ破られてもおかしくない。当然夜が訪れても満足に眠れず、ただ緩慢な睡魔と戯れることしかできなかった。
 そんなさなかに。
 隣で寝袋に包まり目を閉じていたはずの少年が、不意に口を開いたのだ。
 ──ビートルズ?
 名前だけなら、かろうじて知っている。実際に曲を聴いたことはほとんどない。拓也が好んで聞いていたラジオで、何度か聞いたことがあるぐらいだった。そのときはほとんど聞き流していて、正直古臭いなと思った程度だったが。
「ビートルズでしょ。ジョン・レノンとかの……名前ぐらいなら知ってるけど。でも、詳しくないよ。私、前からあんまり音楽とかって聞かなかったし……昔の曲になると、全然わかんないもん」
「昔の曲か……まあ、そうだよな。俺達が生まれた頃には、とっくに解散してたし。俺は結構好きだったけどさ」
「拓さんはずれてるからね」
「……何か今、俺悪口言われてるか?」
「違うよ。ずれてるから、ここまで生きてこられたってことだよ」
 ──ほんの少しだけ、世界や人とずれている。
 だから、滅びと完璧に重なることなく生きてこられた。
 映画の主人公でもなければ、スーパーヒーローでもない拓也がここまで生きてこられたことに理由があるとしたら、その一点だけだったろう。
「……まあ、それで長生きできたんだったら、ひねくれた性格もそんなに損するばっかじゃないか──それこそビートルズだって、一癖も二癖もある人達が集まってたみたいだし」
「最後、喧嘩して解散しちゃったんだっけ?」
「ああ。まあ全員が全員仲が悪かったわけでもないし、解散後に仲直りしたりもしてるんだけど……まあ、その辺はいいや。俺もそんなに詳しくないしな──」
 ──それより、ビートルズだよ。
「──知ってるだろ? 英語の授業とかで習わなかったか?」
「習った気もするけど……細かいところは、覚えてないよ」
「いいんだよ、細かいところなんか。そのビートルズの曲にさ、《Let It Be》ってのがあるんだよ。何か今、ふっと思い出したんだ……Let it beって」
「……どういう意味? それって」
「あるがままに──なすがままにって意味だよ」
 ──知恵ある言葉を囁きなさい……あるがままに。
 ──そういう歌なんだ。
「あるがままに……そのままにしておきなさい、って意味でさ。多分そういうことなんだなって、何となく思ったんだ。本当に、何となくの話なんだよ。深い意味とか全然ないんだ」
 吹き荒れる風も、世界を削り落としていく終局の雪も。
 そのままにしておくしかないのだろう。
 店の中は暗く、拓也達と同様に防寒具の類を略奪していった者もいるらしい。商品は明らかに少なく、衣装掛けは倒され、ガラスケースは割られているものもあった。奥の倉庫でようやく寝袋を発見できたときは、思わず快哉を叫んだものだ──ほとんど捨て鉢の気分で侵入したようなものだったし、実際店内にまで動く死者達が入り込んでいたとしてもおかしくなかった。ただの幸運と捉えるか、それとも現実とは得てしてそういうものだと納得するのか。
 ──あるがままに。
 ここから先はもう、起きていく全てのことに対して、予め用意された運命だと思って受け止めるしかない。
 夜風に軋む店の隅で、寝袋に包まったまま身を寄せ合い。
 布地越しに伝わる鼓動だけを頼りに、拓也は一向に訪れる兆しのない睡魔を待つ。
 眠れるか、眠れないか。
 考えたところで、どうしようもない。
 ──あるがままに……なすがままに。
「いい歌詞だなって思ったんだ。今更──今更気付いたのかよって、そう思ったんだよ」
「いつでも遅いなんてことはないんだよ、拓さん……気付いたのなら、あと何日かは、もっともっと幸せになれるかもしれないからね」
「……たまにおまえは、賢いことを言うよな……」
 ──賢い言葉を囁いて。
 背中越しに、互いの笑いが伝わる。
 あるがままに、荒廃していく夜を過ごして。
 二人は、他愛ない話をしている内に、いつの間にか眠りに就いていた。

 世界が滅びるその日まで、あと六日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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