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■ 1月3日 ■
 天使の頭を、巨大な鉄の棍棒で叩き潰す。
 歯車やネジ、有刺鉄線、釘が無数に生えた質量の塊は頭部を丸ごと消し飛ばし、雪の下に埋もれた道路をも陥没させた。僅かな震動が走り、足下がぐらつく。鉄を振り下ろしたせいなのか、それとも自分自身の愚かさに目眩がしているのか、拓也にはもう区別ができなくなっていた。
 広がる血。
 倒れ込む体。
 白い絨毯のように積もった雪の上に、黒く広がる髪。
 ──ほんの一瞬じゃないかよ。
 ほんの一瞬、自分が先行しただけだ。距離にして数メートルも離れはしなかった。
 その一瞬で、拓也が守りたかった世界が終わろうとしている。
 崩れた世界。
 壊れていく希望。
 失われていく大切なもの。
 知ることのできない過去──悔やむことさえできない過去。
 押し潰されそうな後悔。
 掴む服。
 跳ね上がる鼓動。
 荒くなる呼吸。
「……美雪」
 ──これが結末なのか?
 吹雪を突き抜けて現れた天使が、少女の脇腹を食いちぎった。
「美雪──」
 終わってしまう世界。
 滅んでしまう世界。
 汚れてしまった世界。
 神様から見放された世界。
 崩れていく世界。
 壊れてしまう世界。
 泣き出しそうな世界。
 誰にも、省みられることのない世界。
 全てが終わっていくのだろうか。
 全て、終わってしまうしかないのだろうか。
 華奢な体を抱きかかえる。思っていたより遙かに軽く、肌色は病的に青白い。傷口は深く、咄嗟に丸めた上着で押さえても、止めどなく出血が続いている。
「……ごめんね──拓さん」
 ──約束、したのにね。
 弱々しい声。
 震える指先。
 つたなく伸ばされたそれを握り締めて、もう二度と離すことはない。
「美雪……俺、おまえのことが大好きだ。この世界で誰より、おまえのことを愛してる。この世界に住むみんながおまえのことを嫌いになっても、みんながおまえを不幸にしようとしても、この世界そのものが敵に回ったって、俺だけはおまえを愛し続けてやる。俺だけはおまえの味方でいてやる。だから……だからさ──」
 ──何でもするから。
 ──だから。
「──死ぬなよ! 死ぬなよ、畜生──何なんだ!! ここまで来たんだ! ここまで来て! この仕打ちか……こんなザマかよ、神様!! あんた一体何がしたいんだ──こんなひどい目に遭わなきゃいけないぐらい、俺達は悪いことをしたっていうのか──!!」
 ──答えろ!
 遠吠えのように轟く叫びに答えなどなく。
 少しずつ広がっていく血溜まりが、拓也の心臓を握り潰そうとする。

 世界が滅びるその日まで、あと五日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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