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■ 1月6日 ■
 少しずつ──痛みが引いてきている。
 起き上がってすぐに、シーツを一枚被っただけの格好で床に寝ている拓也の姿が目に入った。
 ──拓さん。
 誰もいなくなってしまった廃病院。
 そこに美雪を連れてきた拓也は、ずっと寝ずの看病をしてくれた。慣れない手つきで包帯を巻き、薬を塗って、浮いた汗を拭く。薬液がなくなれば袋を差し替え、少しでも痛そうな素振りを見せると痛み止めの薬を持ってきてくれた。明らかに拓也自身疲弊しているにも関わらず、怖いぐらいずっと一緒にいてくれた──側で、見守ってくれていた。
 ずっとずっと。
 ずっと──守ってくれていた。
「……ごめんね。ありがとう──拓さん」
 どれほどお礼を言っても言い切れない。
 ビニール袋を取り去り、腕に巻かれた包帯を解く。
 最初は掌にしか浮かんでいなかった緑色の斑点は、今は肘のあたりにまで及んでいた。
 掌は──包帯と、融合しかかっている。剥がすときに微かな痛みが走り、皮膚がめくれてうっすらと血が滲んだ。融合病の患者は大抵早期に死亡してしまうため、末期まで進行した場合どうなるかは不明な部分も多かったのだが、どうやら最終的には肉体と肉体でなくとも融合してしまうらしい。
 残り何十時間か後に滅んでしまう世界では、気にする必要もない話だけれど。
 美雪は、再び両腕に包帯とビニール袋を巻き付けた。厳重に──頑丈に、解けないように巻いて、肘までを覆い隠していく。
 ──拓さんは、やっぱり凄い人だね。
 疲れ果て、意識を失うことでようやく眠れたらしい少年を起こさないよう、声にならない声で囁く。見下ろす姿はいつも見ているものよりもずっと小さく、ずっと強いものだった。
 泣き腫らした瞼。
 ぼさぼさに跳ねた髪。
 寒い中、何度もタオルを濡らしては絞り、汗を拭い、声をかけ続けてくれた少年。
 シーツから微かに覗く、真っ赤にあかぎれた掌が、どうしようもなく愛おしくて。
 ──大好きだよ、拓さん。
 約束の通りに──好きだと、胸の中だけで語りかける。
 体は思ったよりも回復しているらしい。これだけ起きていても、昨日より明らかに痛みが軽減しているのがわかる。
 世界の終わりを一緒に迎えられそうな、そんな気がした。
 そんな気がして、心の底から安堵した。

 ほんの少しだけ──目眩が。

 ──拓さん……。

 世界が滅びるその日まで、あと二日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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