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■ 10月1日 ■
「……あれ? 拓さん、何してるの?」
「お、美雪。やっと起きたのかよ。お祝いしろ、お祝い」
「……お祝い? 何かいいことあったの?」
「あったあった。ありまくり」
 一人で勝手にはしゃぎ回り、拓也はひどく機嫌が良さそうだった。
 美雪はこういうとき、特に何も言わないで彼に大人しく従っておくのが吉だということを学習していた。どうにも自分勝手なくせに、誰かと一緒でないと心細くてしようがないらしいのだ。それを可愛いと思えるか、はたまた馬鹿みたいだと思ってしまうかで、恋人同士の関係というのは大きな分岐を迎えることになる。
 別に、二人が恋人同士というわけでもないのだが。
 世間から見ればそうなのだろうと、美雪は勝手な推測をつけていた。
「凄いぞ、世界の終末までちょうど百日だ。めでたくはないが、なんつうか、キリがいいよな」
「……そんな不謹慎なことでお祝いの準備してたわけ?」
「駅前のジャスコなんか、終末特売とかやってるぞ。ほらこれ、広告」
「本当だ……あ、お肉安いよ、拓さん。いくらでもハンバーグが食べられるよ」
「子供舌め。そういう日はな、ステーキだよ、ステーキ。これぞ裕福な人間の食い物だ」
「発想の貧困なり」
「お金持ちは毎食ステーキ食ってると思ってたんだよ、悪ぃかよ」
「拓さんの家、ひょっとして貧乏だったの?」
「いや、そういうことはないと思うけどなぁ……あ、高校にまだマトモに行ってた頃さ、学費の納入忘れてて、先生にこっそり呼び出されたことあるんだよ。向こうの方が申し訳なさそうでさぁ……あの顔だけは、忘れられないよなぁ」
「なんだか、私の人生って幸せだったのかなぁって思えてきちゃったよ……」
「馬ー鹿、俺達の人生なんざ概ね幸せだろうが。それで、まだまだ幸せになれると思っている内に、気付いたらみんな死んでるんだよ」
「……時々さ。時々、拓さんって凄く格好いいこと言うよね」
「時々じゃなくていつもだ、いつも。よし、美雪、特売で安い肉を買いに行こう」
「……やっぱり、不謹慎」
 たとえ不謹慎でも、格好良くなくとも。
 生きることにしがみつくその強さを、馬鹿にする権利は誰にもない。
 そんなことを考えていたわけでもないが──美雪は、大人しく外出の準備を整え始めた。窓の外を見れば粉雪がちらつく。深く降り積もることもない代わりに、溶けて消えることもない終末の白雪。
 ──これが、積もったら。
 そのときこそが、世界の終わりなのかもしれない。
 あと百日で確実に訪れる、終局なのかもしれない。

 世界が滅びるその日まで、あと百日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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