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■ 10月8日 ■
 ──先日、代々木公園で起きた天使化症候群罹病患者殲滅部隊による大量殺人事件についての続報です。
 ──天使化症候群に感染した少年達を殺害するという行為が、彼らの精神にどんな負担を与え続けたのか、今日は心理学者の遠藤先生をお呼びして……。
 ──人殺しを公認された軍人なわけですから、これは殺人鬼の集まりみたいなものなんですよ……。
 ──国会では、部隊発足を容認した首相への反発が強まっており……。
「馬ッ鹿じゃないんかね? 世界が滅びるってときに、今更何の話してるんだか」
 半眼でテレビに愚痴り、春奈はゆっくりと缶ビールを傾けた。炭酸と淡い苦味は腐った気分を少しだけ晴らしてくれる。時代と世相がどれだけ変化しても、アルコールの効果はいつでも一定だった。脳細胞を破壊し、意識を酩酊させ、感覚を鈍磨させる。後はつまみさえあれば完璧なのに、と春奈は小さな悔恨を舌の上に乗せた──真っ昼間から飲んでいられる幸せなご時世に、暗いニュースなど話の種にもなりはしない。芸人がくだらないお笑いでもやっている方が遙かにましだった。
「天使化した人間は、それこそ軍隊でもないと止められねえからって部隊を発足したのに……本当、文句しか言わねえね、日本人って」
「みんな、あとで責任とらされるのが怖いんですよ」
 洗濯物にアイロンをかけながら、知之が穏やかな口調で答える。春奈の下着に手を伸ばすときだけは頬が紅潮することに気付いてはいたものの、それを指摘する程意地悪くはなれなかった。内心で、可愛い奴だ、と楽しんでおくだけに留める。
 テレビでは相変わらずストレスによる心理的抑圧がどうの、殺人許可証を交付した首相の責任がどうのと、何の役にも立たない議論を繰り返していた。もしかしたら、当の本人達ですら、今自分が画面の向こう側で大勢から嘲笑されていることに気付いているのかもしれない──それでも、今まで担ってきた役割を捨てられないのだとしたら。
 それはそれで悲しいことだと、春奈は微かに同情する。
「俺……もし天使化したら、やっぱりこの部隊の人達に殺されるのかな」
「今だったら、天使化してなくても殺してくれそうだけどな」
「冗談になってませんよ……」
「そっかな? 悪いね少年。キスで許せ」
 すっかり真っ赤にのぼせた顔で、無言でアイロンをかける作業に没頭してしまう知之。
 そんな些細な仕草だけで、全部を許してしまいたくなる──というのは、明らかに依怙贔屓なのだろう。
 好きなだけ依怙贔屓しても許されるから、春奈と知之は恋人同士になったのだ。
「少年のはあれだ、いつ発病するとかさ。わかんねぇの?」
「いや、症状の進行度合は人それぞれって言われましたけど……ていうか先生、暗い話題なのに滅茶苦茶フランクに言いましたね?」
「暗い話題を更に暗く話したってしかたねぇべさ」
「……先生のそういうところ、尊敬しますよ……」
「サンクス、少年」
 言って二人は笑い合い、
 言って二人はキスをする。
 文句ばかり先行するこの時代に、唇を重ねる瞬間だけは──互いの心が綺麗なのだと、自信を持って言い切れるから。

 世界が滅びるその日まで、あと九十三日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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