FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 10月22日 ■
 一人でぼうっとしていると、どうしようもなく眠たくなった。
 美雪はどこかで拾ってきたジグソーパズルに熱中している。家の中はただ静かだった。窓の外は吹雪とも呼べない微妙な勢いで雪が降り積もり、目に見える景色を全て白一色に染め上げていく。今度の雪はしっかりと積もる性質のようで、既に関東地方の平野部でも十センチの積雪が確認されているらしいとラジオで聞いた。関東でこれなら北国はもっと酷いんだろうな──と何の役にも立たない思考を弄びながら、拓也はただ退屈を持て余す。
 何もない。
 やるべきことも、やらなければならないことも、何もない。
「……暇だな」
 場当たり的に呟いてみる。それで何が解決するというわけでなく、空白の時間が埋まるわけでもない。ソファに寄りかかって呆然としている拓也には脇目も振らず、美雪は必死になってパズルと格闘していた。どうしても上手く嵌まらないピースがあるらしく、先程から延々と不穏な呻き声を垂れ流している。
 あまりにも長時間悩んでいる姿が気になって、集中しているところに悪いとは思いつつも、つい拓也は声をかけてしまった。
「……なあ。さっきからやってるそれ、完成したら何の絵になるんだ?」
「──ん? ──あ、う、うん。えっとね……これは、オペラ座の怪人」
「劇団四季の? へえ、おまえってああいうの好きだったんだ」
「好きだよ? 私は音痴だけど」
「別にそれはどうでもいいけどな」
 髪を掻き、美雪の対面に座る。
「……ちょっと貸してみ」
 美雪が持っていたピースを掠め取ると、適当な箇所に嵌め込む。更に幾つかのピースを他の箇所にも嵌め込んでいった。全体の絵柄が派手なためだろう、それほど難しいパズルではない。ジグソーパズルの定石通りに外枠から埋めていけば、それほど時間もかからず完成させられそうだった。
「簡単じゃねえかよ」
「う~……拓さんは頭がいいから簡単なんだよ……」
「ふふふ、おまえとはデキが違うからな」
 笑い、ピースの山を前にする美雪の頭をくしゃくしゃと撫でる。
 こんな他愛ない遣り取りが、いつまで続くのかはわからないけれど。
 いつまでも続けていく努力はしよう。
 拓也はもう随分前に、美雪には内緒でそう決めていた。
「う~っ……それじゃ、今から三時間以内に私が完成させたら、ラーメンおごりだよっ」
「よし、乗った。タイムアップしたら俺におごれよ」
「いいよ、そのぐらい。約束だからね。破ったら指切りゲルマンだよ?」
「……ゲルマン?」
「指ぐらい切りそうなイメージだよね」
「首も切りそうなイメージだけどな」
 いつまでも続くはずはないと、毎日のように思い知らされてはいるけれど。
 大切なのは事実に捕らわれることではなくて、事実を捉えていくことだ。その上で尚自分だけの生き方を探す。世界の終わりで一番綺麗な死に方ができるような、そんな生き方を探す。
 そのために今は、ジグソーパズルの完成でも祈るぐらいしかやることはないけれど。
 終わりの日を、せめて笑顔で迎え入れるため。
 できることは全てやっておきたかった。
 美雪にとってのジグソーパズルが、できることなのかどうかは、今のところ難易度として相当高そうではあるが。

 世界が滅びるその日まで、あと七十九日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。