FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 10月31日 ■
「やっぱ、電話出ないか。何かあったのかな」
 学校の図書室に向かう、雪深い道路を歩きながら。
 春代ノゾミは、携帯電話を耳元から離し、鞄の中へと仕舞い込んだ。特別用事があるわけでもないのだが、何となく話をしたくなって昨日から拓也に電話をかけているのだが、一向に繋がる気配がない。念のため留守番電話に伝言は残しておいたのだが、拓也が電話をかけ直してくる様子もなかった。もとからあまり他人と積極的に交流するタイプの人間ではないようなので、正直ほとんど期待もしていなかったのだが。
 ──胸騒ぎって言うのかな。こういうの。
 何かがひっかかる。魚の小骨が喉に刺さったときのような感覚。迂闊な痛みが抜けず、神経の最も敏感な部分だけを丁寧に刺激してくる。家から学校まで徒歩で二十分といったところだが、その道中、既にノゾミは数え切れないぐらい携帯電話を取りだし、画面を確認し、落胆してはまた鞄に入れるという作業を繰り返していた。
 普段ならば奇異な視線で見られただろうが、幸か不幸か今はもう終局だ──未だちらちらと雪が舞う中、呑気に外を出歩いているような人間は滅多に見かけない。見かけたとしても、互いに声をかけることもなければ、視線を合わせることもなかった。
 皆それぞれに出かけるだけの用事があり、大抵の場合は致命的なものばかりだ──ノゾミのように、退屈だから図書室に行くなんて気楽な人間はそういない。誰もが俯き、自分の爪先ばかり睨みつけている。地面を蹴れば、この忌々しい地球を踏み砕いてやれるんじゃないかというような表情で、誰もが足早に雪を掻き分けどこかへと向かっていった。
「……何かさ。喋りゃいいじゃん」
 ──どうせ暇なんだからさ。
 去年の冬との明確な違いは、当然終局宣言の発令が挙げられるが──それ以上にノゾミは、今年の冬はあまりに静かすぎると感じていた。あらゆる音が降りしきる雪に吸い込まれてしまったのか、曇天で渦巻く風の音以外、ろくに物音も聞こえない。車は当然通らないし、ごく稀にすれ違う歩行者達の息遣いもほとんど聞こえなかった。自分の足音も、不思議と耳に入らない。
 家でテレビを見ていても、何だか四六時中お通夜の中継を見ているような気分になる。一年前は芸能人の不倫がどうしたの、アメリカで大規模な政治集会があっただの、名前も聞いたことのないような国で内戦があっただの、とにかく視聴者を飽きさせまいと無闇な刺激ばかりばらまいていたはずだ。芸人達は他愛もないことで大騒ぎして、さして面白くもないことで大笑いしていた。今は皆出演しないか、出演しても神妙な顔で人生がどうの、これからの生き方がどうのと、似たような話ばかり垂れ流している。融合友愛教団によるラジオジャックも相変わらず解決の目処は立っていないようで──というか、もう警察は致命的な犯罪行為以外は野放しにしておこうと決めている節があったが──、お気に入りの音楽番組も中断されてしまって久しい。
 六十年代から八十年代にかけて、いわゆるロック全盛期に流行った曲を流す番組だった。レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズ、セックス・ピストルズ、ビートルズ──古臭く、懐かしさすら感じないけれど、どこか耳に心地よい。今時の曲はどうにもがちゃがちゃと騒がしくて、正直ノゾミはあまり好きになれなかった。向こうだって別に好いて欲しくもないだろうと思う。自分のようなひねくれ者が応援したところで、何かの利益に繋がるわけでもない。
 ──夜をぶっ飛ばせ、とかさ。
 そういう、ストレートな曲名が好きだった。使い古されたギターリフが、不協和音にしか聞こえない曲調が、質の悪い録音が、たまらなく心地よかった。今になって、せめてCDでも買っておけば良かったと後悔する。ラジオで聞くのは好きだけど、家で常時流していると飽きてしまいそうで、音源として手元に保存することを恐れていた。まさかことここに至り、ラジオ局が馬鹿みたいな新興宗教団体に占拠されて、毎日ろくでもないことを垂れ流すだけになるだなんて──そんなことが、誰に予想できたというのだろう。
「……秋川も好きだって言ってたっけ。そういえば」
 電話に出ない少年。
 かけ直してもこない少年。
 それほど親しい間柄ではないのだから、当然と言えば当然ではあるのだが。
 ──気にはなるじゃん。
 好意とかそんな甘ったるいものではなく。
 もっと危機的な──見逃してしまえば二度と元には戻らなくなる、そんな状況に置かれている気がした。だからといって、もう一度彼の家を訪れようとも思えない。それこそ、そこまで親しくないし、何より彼と同居している少女とは無意味に相性が悪かった。一応ノゾミはそれなりに気遣いのできる人間ではあるので、自分とあの少女とが口論になって、秋川拓也が居たたまれない思いをするというのは本意でない。
 ──少し、時間が経ったらでいっか。
 その間に電話が通じるようになるかもしれないし、向こうからかけ直してくれるかもしれない。
 彼の身に何が起きているのかは知らないし、きっと聞いたところで教えてもくれないだろう。一度開いた距離感が、そう簡単に縮まるとも思えない。お互い縮めようとしているのかどうかすら不明だった。
 だから──ノゾミは、白い息だけを引き連れて歩き続ける。
 学校の図書室へ。
 拓也がいるかもしれない図書室へ向かう。
 せめて期待するぐらいの権利はあるはずだと信じて。

 世界が滅びるその日まで、あと六十九日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。