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■ 11月1日 ■
 ようやく外出する気分になれた。まだ整理のついていないことは多かったが、あの事件が起きた直後ほどではない。三浦宗二郎と千秋、そして名前のない赤ん坊達の融合病感染事件──失神した自分も大概情けないとは思うが、心が現実に耐えきれなかった。知之が咄嗟に支えて助けてくれたのだというが、彼はよく意識を保てていたものだと思う──形は違えど、唐突に訪れる終わりは、知之の心を間違いなく傷つけたはずだ。
 もうあと何日かで、私達も同じ運命を辿るはずなのだから。その行く先を見せつけられたのだから、ショックを受けないはずがない。少なくとも私はショックだったし、だから気を失ってしまった。知之から聞いた話だけど、あの日一番冷静だったのは秋川拓也だったそうだ。とにかく現場から人を遠ざけて、警察を呼び、特殊処理班の人間が到着するまで混乱する院内を巡回し、不安を訴える妊婦達に声をかけたり、必要であれば別の産科への転院手続きまで手伝ったらしかった。
 秋川拓也。
 とにかく、クラスだと目立たない存在だった。友達がいるようでいない、いつでも一人で窓の外をぼんやり眺めているような、そんな少年。けれどそんな少年が、あの場で一番適切に動き、誰よりも正しく宗二郎さん達の行く末を見届けたのだ。
 ──私よりよっぽど立派でしょや。
 教師たらんとしていたが、私もまだまだ修行が足りないらしい。
 家の中に引き籠もっているのも不健康な気がして、私は何十時間かぶりに家を出た。
 知之はベッドの上で安らかな寝息を立てている。もう一日の大半が睡眠のための時間になってしまっていた──あと一日二日保つのか、それとも家に帰ったらいきなり殺されるのか。私にはもう、判断はできない。
 厚手の服とコートを着込み、底の平たい靴を履いて街に出る。
 降り続く雪のせいか、空気は驚くほどに冷え切っていた。活気など望むべくもない、そんな様相だ。人がいないというだけで、街というのはこんなに寂れてしまうものか。どこまで歩いても私以外の通行人はおらず、商店街は残らずシャッターを閉め切っていた。以前は終局前特売などやけくそなセールを打っていたスーパーも、今はもう閉店して久しい。ごく稀に、非常食の類を並べては無償で配布しているという話だったが、生憎私はそんな幸運に恵まれた試しはなかった。
 ──知之は……クジとかよく当たってたな、そういや。
 何ということもない。
 ただ、恋人のことを考える。どうして私達が付き合い始めたのか、そんなことを思い返していた。
 深い理由なんて思い浮かばない。歳が離れていようが教師と生徒の間柄だろうが、男と女なんだから、恋人同士になってもおかしくはないだろう。当時世間に公表すれば大問題になったかもれしないが、生憎今は皆終局にかかりきりだ。退職した元教師とその教え子が恋愛関係になろうが、それこそ肉体関係を結ぼうが、気にする人間なんて誰もいない。
 ──男と女なんだから。
 どうなっても、おかしくない。
 深く考えていなかったけれど──もしかしたら違うのかもしれない、と最近思うようになった。
 そもそも付き合うと言ったって、前はそんなにべったりした関係じゃなかった。私はそういうのが苦手だったし──過去何度か痛い目を見たことがあるのだ──、知之もそんな私に遠慮して距離を置いていたと思う。一ヶ月に一度デートすればいい方で、私の業務が忙しい時期なんかは電話もろくにしなかった。
 でも──終局が来るとわかって、私たちの関係は一変した。
 なるべく沢山のことを話して、二人でいる時間を多く作るようにした。
 元から両親との関係が絶望的に悪化していた知之は、これ幸いと家を飛び出して私の部屋に転がり込んできた。そのとき既に天使化症候群の話は聞いていたし、私も知之の病気も全部含めて受け容れることに決めていたから、彼が側にいてくれるのはむしろ嬉しかった──今までないがしろにしてきた時間を、少しでも埋めていけるような気がしたのだ。
 何故、そんな関係になれたのか。
 四六時中一緒にいて、べたべたとくっついて。
 人目も憚らずにいちゃついて、百回も二百回もキスをして。
 何で、そんなふうになったのだろう。
 どうせすぐに死ぬんだから好きなことをしてやれとか、そういった投げやりな気持ちがあったわけでもない。それだけは断言できた。
「……違うよな」
 呟いてみる。
 そして、ああ、違うんだと改めてわかったような気がした。
 投げやりなんかじゃない。
 終局だからもうどうにでもなれとか、そんな虚しい気持ちじゃないんだ、これは。
 私達には確かに見えているものがあった。
 私達には確かに目指している場所があった。
 だから私達は、二人で一つになったんだ。
 宗二郎さんと千秋さんのように。
 自分達がいつ死んだとしても、せめて後悔だけはしないように。
 ──私は。
 後悔なんてしない。
 後悔するはずがない。
 竹井知之と、一緒に生きていけるんだから。
 竹井知之に、殺してもらえるんだから。
 こんな幸せ、世界中どこを探したって他には見つからない。
 だから一緒にいる。
 投げやりなんかじゃない。
 好きで好きでしょうがないから、一緒にいる。
 それだけだ。

 例えその結果が、どんな悲しい形になったとしても。

 世界が滅びるその日まで、あと六十八日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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