FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 9月22日 ■
 神様の存在を信じたことが全くない、と言えば嘘になる。その程度の分別は拓也にもあった。子供の頃は素直にサンタを信じていたし、全く同じベクトルで神様がいると信じていたように思う──サンタも神様も何もかも、目に見えない全てを同列に信じることができていた時期は、間違いなくあった。勿論年齢が二桁になる頃には物事の裏側に気付き始め、人並みに落胆し、人並みに納得したものだったが。
 今思えば、不思議としか言えない──あれだけ真っ当に神様を信じていたはずなのに、それがいないとわかった瞬間、拓也は何故それを素直に受け入れることができたのだろうか。もっと絶望すべきではなかったのか──泣き喚いて神の不在を嘆き、受け容れ難い現実に苦悶するような、そんな瞬間があって然るべきではなかったのだろうか。
 だが、少年だった拓也は「そんなもんだよな」と普通に納得し、普通に受け容れた。他の友達も皆似たようなものだったように思う。拓也が知る限り、サンタの正体が自分の親だと知ってしまったとしても、悲嘆に暮れた知り合いというのは存在しない。
 ──何でだろうな。
 薄々勘付いていたということだろうか。
 神様なんかいないのだと。
 この世は全てなるようにしかならないのだと。
 どんな不幸も不平等も、うっすらと微笑みながら受け容れるしかないのだと。
 子供ながらに──ぼんやりと、そんなことを悟っていたのだろうか。
 周囲の大人達の態度や言動から、少しずつ学び取っていたのだろうか。
 絶望に対する、耐性を。
「……だとしたら」
 ──だから今俺は生きてるんだな。
 未来はない。
 将来はない。
 行く先は完全に閉じていて、戻る道すらありはしない。
 滅びに向かって真っ直ぐ傾斜していく世界の中で、それでも目の前の二つの首吊り死体のように絶望し悲嘆して逃避するような、そんな真似はできなかった。軽蔑するわけではなく、むしろ尊敬する──ここまで絶望に抗い、戦い続けてきた彼と彼女に、恋人同士であろう二人を尊敬する。
 一人で散歩に出た先の公園で。
 ブランコに結び付けられたマフラーが、冷たい風に吹かれてなびく。
 彼らの魂の行き先を示すかのように、揺らめいて蠢く。
「……おめでとうございます」
 呟き、静かに掌を合わせて祈る。
 死に顔がどれだけ醜かろうと、
 生理現象が遺体をどれだけ汚そうと、
 二人が絶望と戦い続けてきたことに違いはないのだから。
「きっと、あなた達が正しくて……あなた達が、勝利なんです」
 絶望を知ったとき。
 人間は本来、こう振る舞うべきなのだろう。
 それでも──生きて行く意思を曲げられないから、拓也は今日も虚しい散歩に出かけたのだ。
 出かけた先で、二人と出会えたのだから。
 きっとこの話を誰にすることもないだろう──警察も、いちいち自殺者の対応をしていられる程に機能しているとは言い難い。
 それでも。
 それでもいいのだ。
 ここで拓也と二人が出会えた──絶望の意味を、終わってしまうことの意味を、目を逸らしていた終局を。
 改めて見据えることができたのだから。
「……だから、どうか、──安らかに」
 世界が手向けの言葉を贈られる、その前に。
 安らぎを願うぐらいに愚かであってもいいはずだと、拓也は自分に言い聞かせた。

 世界が滅びるその日まで、あと百と九日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。