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■ 11月14日 ■
 何もかも、全てが狂い始めていた。
 足音もなく、気配すらなく、しかし滅びは徐々に世界を侵食しつつある。ノゾミはそれを十分理解していたし、どれだけ抵抗しても無駄だと諦めていた──諦めていたつもりだった。だが、いざ自分がその滅びに晒されてみると、所詮つもりはつもりでしかなかったことを思い知らされる。
 滅びは──終わりは。
 人間の心を、あまりにも容易く破壊する。
「ええと……どちらさまですか?」
 おずおずと問いかける声。
 聞き慣れた声。
 最初は冗談だと思っていた。
 だが違った──声の質が、表情が、怯えた目が。全て、冗談などではないことを物語っていた。
 人見知りする妹の、初対面の人間に対する声だ。何度も聞いたことがある。だからわかる──何もかも全て、冗談では済まされない事態が起きているのだと。
 何もかも全て、おかしくなってしまう。
「……カナ、止めろって、冗談言わないで……」
 冗談だと信じたかった。
 妹が、珍しくふざけているのだと信じたかった。
 本当はわかっているのに。
 ノゾミが気付かない内に少しずつ、逃れようのない終わりが訪れようとしていることを。
「カナ!」
 肩を掴む。
 妹の顔が恐怖に歪んだ──今にも泣きそうな表情に、つられてノゾミも泣きたくなる。
「カナ!」
 叫びが、街と空とを虚しく切り裂いて。
 刹那、妹の表情が驚きに変わる。
 ぽかん──と間抜けに口が開かれた。

「──お姉、ちゃん?」

「──カナ」
「……お姉ちゃん。ごめん……あれ? お姉ちゃん……だよね?」
「そうだよっ……何ぼけてるんだよ、馬鹿!」
「ご、ごめんっ──でも、あれ? 何で私、お姉ちゃんのことが……」
「何だよ、日頃の恨みかよ……馬鹿、本気でビビったんだからなっ」
「ごめん、ごめんね、本当に。その……きっと、私、疲れてるんだと思う」
 泣きながら。
 涙を流しながら。
 抱き合い、笑い合う二人の姉妹。
 両親と一切言葉を交わさなくなっても、ノゾミと妹との交流が切れることはなかった。姉として慕ってくれていたのだろう──よく部屋に来ては、学校での話や嫌いな教師に関する愚痴など、取り留めのない話をしたものだ。二人でよく買い物に出かけたし、映画も見に行った。ノゾミにとっての家族とは、妹だけを指す言葉だったのだ。
 だからこそ、安堵は強く。
 だからこそ、恐ろしかった。
 春代ノゾミと妹のカナエは、たまらなく恐ろしかった──自分達の身に、致命的に何かが起きつつあると理解してしまったから。
 だから──せめて今は、泣きながら笑える幸せを噛み締める。
 抱き合って、言葉を交わして、ふざけ合って。
 終わりから目を背け続ける。
 だが──そんな二人は、もう忘れてしまっていたのだ。
 春代タマエという、末の妹の存在を。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! 気付いてよ――私の声、聞こえないの!? お願いお姉ちゃん、私のこと気付いてよ……!」
 もう、聞こえない。

 世界が滅びるその日まで、あと五十五日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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