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■ 11月17日 ■
 通っていた学校の図書室は、いつも通り薄ら寒く、いつも通りほとんど無人だった。
 指定席となった隅のテーブルに着いて、ノゾミはただ黙々と本を読んでいる。特に面白いと思ったことはない。ただ、本を読むのが好きだった──できるだけ難しくて、わけのわからない本を読むことが。
 それが格好いいことなのだと、子供の頃からそう思っていた。今はほとんど意地のようなものだ。散々海外の古典、名著を読み漁り、それなりの知識も身に付いた。だからといってそれを披露する機会があるわけでもなく、多くの物語は無意味に脳の中へと溜め込まれている。腐ることはないが、活かされることもない。
 ──別に、好きじゃなくてもいいじゃん。
 誰かに言い訳するような心地のまま、胸中で嘯く。
 国語は得意だった。
 だが、好きでもなかった。むしろ率先して嫌いだったのだと思う。読書が趣味なのだと思われるのも嫌で、できるだけ人に隠れて本を読むようにした。
 教師や友人に隠れてページをめくるのは、惨めでもあったし、愉快でもあった。
 ずっと、そうしてきた。
 ずっと隠れて本を読んできた。
 偶然なのか、それとも自分の存在感は思った以上に薄いのか、発見されたことは一度もない。昔から逃げるのも隠れるのも得意だった──そうしないと生きてこられなかったから、きっと無駄に隠れん坊の経験値でも蓄積していたのだろう。考えれば、自分の中にあるのは無駄なものばかりだった。好きでもない読書、必要のない隠れん坊。役に立つ機会すら与えられないまま、世界は閉幕しようとしている。
「……仲間はずれはいつものことだけどさ」
 呟き、窓硝子から外を見遣る。雪に覆われた街で、自宅の方角にだけは視線を向けられない──妹との一件以来、家にいるのがたまらなく恐ろしかった。自分が大切な何かを忘れているような、大切な人達から忘れ去られてしまうような、そんな恐怖に耐えきれず、飛び出すようにして逃げてきた。
 意識もせず、足が自然に選んだのがこの図書室だった。逃げてきただけで、他にやるべきことも見当たらない。仕方なく、今まで何度となく目を通した本を数冊書架から取り出し、机の上に並べてみて、そこで途端に虚しくなった。どんな顔をすればいいのかもわからないまま、惰性でページをめくり続ける。
 家から持ち出したジャムパンを食べながら。
 牛乳パックに刺さったストローに口をつける。
「……どうするかな」
 呟き、ぱたり、と本を閉じる。どうしても、読書を続ける気分にはなれなかった。
「──大抵間が悪いんだ。こいつ」
 半眼で、下ろした視線の先。
 向かい合う席で、拓也が眠っている。テーブルに上半身を突っ伏して、時折小さく寝息を立てて。
 ──何か、おまえっていつもここにいるよな。
「……秋川に言われたくないっての」
 ボールペンの先で、軽く少年の額を突く。僅かに眉をひそめたが起きることはなく、拓也は一度呻いた後、またすぐに寝息を立て始めた。
「……どうせ──起きたら、全部忘れてるんだろうしさ」
 ジャムパンを囓る。
 口の中に広がる甘味と、頬を伝う熱と。
 整理しきれない感情が溢れて、手元を震えさせる。
 きっと──今はまだ記憶してくれているこの少年も。
 起きたら、全部忘れてしまうのかもしれない。
「──嫌だなあ……嫌だなあ、それ」
 呟いて。
 拓也の寝顔を、じっと見詰める。
 他にすべきこともなく、
 他にやりたいこともない。
 何より──他に、できることが何もない。

 家に帰っても、きっともう誰もノゾミのことなど覚えていないだろうから。

 世界が滅びるその日まで、あと五十二日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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