FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 9月23日 ■
 分厚く垂れ込める黒い雲。秋空だというのにその重量は空恐ろしく、見上げているだけで胸をむかつかせる何かに満ち溢れている。閉塞し終焉を迎える世界への苛立ちから、かろうじて経営を続けていたスーパーの店主が行方不明になっていたことまで含めて、あらゆる不幸と不条理は空から降ってくるのではないかと思えた──実際のところ、降ってくるのは湿気を含まないさらりとした大粒の雪ばかりなのだが。
 雪は深々と降っている。
 アスファルトは白無垢に覆い隠されていた。
 凍える程でもない中途半端な寒さに震え、拓也は一人、自宅へと続く道の半ばで立ち止まった。見慣れないものを見つけたからだ。見慣れないし、これから先見慣れる予定もない代物だ。
「……何だ、これ」
 車の通れないような細い路地に。
 転々と、雪だるまが立っていた。
「凝ってんなあ」
 見れば、造形にそれなりの気合いを入れたことが窺える。泥が混じらないように注意を払ったらしく、純白の表面は新たな雪の結晶を纏うばかりだった。
 この近所には、小さい子供がまだ多く残されている。きっと彼らが作り、そして放置したのだろう。子供というものは大抵の場合創作意欲に溢れ熱意もあるが、何より持続性を欠く。やったらやりっはなし、作ったら作りっぱなしが子供の基本だ。雪だるまもまた、完成を迎えた時点で興味を失われたのだろう。
 雪は深々と降っている。
 雪だるまもまた、新たな雪に埋もれて消えていく。
「……まあ」
 拓也はしばらくその場で立ち止まり、何事かを考えていた。
 ぶる、と一つ身震いする。寒過ぎる程ではないが、雪が止まない程度には寒い。ただでさえ彼は寒いのが苦手だった。
「……うん」
 ごしゃっ。
 雪が散り、
 雪の人形はばらばらになる。
 足の裏に貼り付いた雪を払い落として、拓也は別の雪だるまの前に立った。
 足を、振り上げる。
 踵落としの要領だ。
 脳天めがけて、強烈な一撃を。
 ごしゃっ。
「……っし」
 点々と続く、雪だるまの死体。
 きっと造り上げられたまま、誰に顧みられることもなく置き去りにされ、埋もれていただろう存在の墓標。
 終わりが明確に迫り来ることは悲劇だが、
 終わりがないこともまた同様に悲劇だと拓也は確信していた。
「これで、ラスト」
 自分の家、玄関の前に立てられた、一際大きな雪だるま。
 拓也は大きく足を振り上げた。
 ごしゃっ。

「おかえり、拓さん」
 美雪が底の抜けた青空のような笑顔で出迎える。
 雪にまみれた姿で手を振って、拓也はとんとんと踵を叩いた。雪が落ち、玄関を淡く濡らす。
 家の中は暖かい。どうやら虎の子の燃料を遠慮なく使用し、ストーブを炊いているらしかった。だからといって特に文句があるわけでもなく、拓也は何もかもを悟ったような心地で大きく息を吐く。人生は大抵そんなものだと、十代半ばにして気付いていたのだ──気付いていない同年代もそう多くはないと思うが。
 その希少な例の一人であるだろう美雪が、渦巻き模様の双眸を輝かせて言ってくる。
「拓さん、拓さん。いいもの見せてあげるよ」
「あん? 何だよ?」
「あのね、大きな雪だるまを作ったんだ!」
 ──へえ。
 息を呑む。
 気温差によるものではない汗を背中に感じながら、拓也はかろうじて表面上の平静を保つことに成功した。
「早く見に行こうよ、拓さん」
「……あ、いや、ちょっと寒いから──この気温なら明日でも残ってるさ。平気だろ」
「でも、今見せたいのに」
「馬鹿、美雪、楽しみは後にとっておけばおくほど、いい味が出るんだよ」
「……そういうものかな?」
「そういうもんだ。わかったら、ほれ。何かあったかいお茶入れてくれ」
「うん。わかったよ、拓さん」
 その夜。
「……俺は多分、凄い馬鹿なんだろうな」
 拓也は、こっそり夜中に起き出して、がたがた震えながら雪だるまを作っていた。

 世界が滅びるその日まで、あと百と八日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。