FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 11月29日 ■
 ──もういい。
 どれだけ眠っても悪夢からは逃げられなかった。
 決して見ることのできなかったはずの光景が、まざまざと脳裏に浮かんでくる。これもまた、自分を蘇らせ、勝手に体を動かそうとしている誰かの意志によるものならば、抗うだけの価値もないことがよくわかった。きっとそれは神様か運命の魔女か、とにかくそういった、自分達には決して手の届かないものだ──手の届かないものが、手の届かない場所から好き勝手に世界を弄ろうとしている。子供の我が儘のようなものだった。完成した積み木の形が気に入らないから、崩してしまう。その程度のことでしかない。
 終局とはようするに、壮大な積み木崩しだ。
 それなら──もういい。
 もう、目を覚まそう。
 きっと辛くはないはずだから、現実の中に戻っていこう。
 ──辛くない。
 折れた腕は相変わらず痛みすらしない。飛び出た骨を支えにして、何とか上半身を引き起こした。今度は腰の骨が折れて、立ち上がれば膝が砕けたけれど、気にする必要もない。既に脳は神経信号を発する役目を忘れ、筋肉の蠕動だけが全身を突き動かしている。痛みを感じないから強く動くことができたし、折れた骨もゆっくりとだが再生し始めているようだった。元が腐乱死体なのだから、再生したところでまたすぐへし折れるのだろうが。
 どうでもいい。
 自分の体が腐ろうが壊れようが、心の底からどうでもいい。
 ──そんなことは、辛くない。
 陽の光が眩しい。
 白濁した眼球でも、光を捉えることができるらしい。そんな他愛のない事実に気付いて、ほんの少しだけ可笑しくなる。昔映画で見たゾンビ達は、まさしく人間離れした化け物だった──けれどよくよく考えてみれば、人間の形をしているのだから、人間としての制約も受けるのだろう。
 ただ、生き延びているだけ──死を先延ばしにしているだけだ。放っておいても、いずれこの体が朽ちて二度と動かなくなることは理解できた。そのときに失われた意識は拡散し、決してこの世界へと戻ることはない。
 今度死ねば──文句なく、完全に死ねる。
 それすら、辛いとは思えなかった。
 赤と白に染まった部屋の中を見回し、改めて悲しい現実と向き合う。もう二度と見たくないと思っていたもの──けれど、それを最初に見てからでないと、これ以上自分は一歩たりとて動けないだろうから。筋肉の群れと化したこの体は、明確な目標を与えられない限りどこにも行けない。
 自分の家。
 自分の部屋。
 恋人だった少年の死体。
 拳銃で頭を撃ち抜かれ、安らかな笑顔で眠る知之の死体。
 ──せめて。
 ──せめて君は、こんなふうにならんで良かったね……死んだままで、良かったね。
 死んだままで。
 死んだのだ。
 殺された──誰に、などと考える必要すらない。それを頼んだのは自分なのだから。見届けて欲しいと伝えたのは自分で、拳銃を残して死んだのも自分だ。あの日自分が殺されてから何があったのか、それこそ神様の力など借りなくても想像はできる。
 秋川拓也か、深沢美雪か。
 そのどちらかが、希望を聞き入れてくれた──知之が誰彼構わず殺すただの化け物になる前に、幸せになって欲しい人を殺す天使でいられる内に、殺してくれた。
 ──だけどさ。
 自分で望んだ。
 自分で頼んだ。
 理不尽だとはわかっていた──理不尽を飲み込んで尚、許せないと思った。それこそが、辛い。秋川拓也と深沢美雪に煮える憎しみと殺意を向けてしまう自分が、辛くてたまらない。
 悪夢としか言い様がなかった。
 あの二人を殺そうと思う日が訪れるなんて──終局が訪れることよりも、遙かに信じられない。信じたくもない。
 だけど、目を逸らせない。
 現実から逃げられない。
 少年の死体を残し、歩き出す。きっと自分はあの二人に恨まれるだろう──憎まれ、罵られるだろう。せめてそれぐらいして貰わなければ、罪悪感で全身が潰れそうになる。
 死体になって。
 蘇って。
 そして、赤城春奈だったものは動き出す。

 世界が滅びるその日まで、あと四十日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。