FC2ブログ
≪11  2018-12/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  01≫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
■ 12月3日 ■
 どんな些細なことでも幸せに替えられる、ハピネス症候群。
 拓さんは、世界で一番悲しい病気だと言っていました。
 確かにそうかもしれません。どんなに悲しくても、どんなに泣いていても幸せだと感じてしまうなら、自分の本当の気持ちはどこにあるのでしょう? 病気で無理矢理変えられてしまう前の、一瞬でも浮かんでいたはずの気持ちは、どこに消えてしまうのでしょうか。それを考えると、何となく拓さんの言うことがわかる気がします。
 でも、私がハピネス症候群にかかったおかげで拓さんと一緒にいられるんだから、それでいいと思っていました。
 世界が終わるその日まで、ずっと二人でいられるなら。
 両手を後ろに組んだまま、私は向き合って座る拓さんに首を傾げて尋ねます。
「ねえねえ、拓さん。私のこと、どう思う?」
「……とりあえず、あれだ。そう……何か、変なとこで年寄り臭いよな」
「……そういうのじゃなくて」
「いや、そんな期待のこもった目で見られても……」
 あともう少しでした。
 あともう少し。
 それだけ待てれば、一緒に仲良く終わりを迎えられる。
 きっと拓さんと二人なら怖くない。
 そう、思っていました。
「拓さん……?」
「……わかった、わかったよ! ……可愛いよ。可愛いですよおまえは」
「……えへへ」
「今日はいつにも増して変だぞ、おまえ……」
 どんなことでも幸せに替えられる。
 それがハピネス症候群なのだと教わりました。
 でも──いつかこの病気でも乗り越えられないぐらい悲しいことが起きるんじゃないかって、私はいつも怯えていました。そんなことが起きたらどうしよう、拓さんとの約束を守れなかったらどうしようって、いつも不安に思っていました。ああでもないこうでもないと考えて、考え続けて、それでも答えは出ませんでした。
 ──可愛いよ。
 その言葉だけで、飛び上がるぐらい嬉しいです。
 飛び上がるぐらい嬉しい私と、泣きたいぐらい悲しい私がいるのです。
「……いつか、綺麗って言われたいな」
 いつか。
 そんなものが来るなんて、もう思えません。
 いつか。
 もう来ない──来るはずのない、いつか。
「……美雪──本当に変だぞ。どうした? 何があった?」
 拓さんの不安そうな眼差しに、手を差し伸べることもできません。
 触れ合うこともできないんです。
 どうしようもありません。
 これがきっと、私の運命なんだと思います。
 天罰とかそんなものじゃなくて、ただそうだったっていうだけの、運命。
 だから私は、一所懸命笑うんです。
 拓さんとの約束を守りたいから。
 拓さんの周りに、不幸の存在を認めたくないから。
 笑います。
 笑うことぐらいしかできない私の、精一杯。
「……ごめんね、拓さん」
 隠していた手を前に出して。
 もう二度と差し伸べることのできない手を、拓さんに見せました。
「──美雪」
 緑色に染まった手を、見せました。
「……ごめんね、拓さん」

 ──融合病。
 それが私の、最後の運命です。

 世界が滅びるその日まで、あと三十六日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

Secret
(非公開コメント受付中)

コメント

プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
QRコード
QR
検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。