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■ 12月11日 ■
 世界の終わりが、あと一ヶ月を切った。
 それがどんな形で訪れるのか、結局学者達には解明できなかったし、予知能力者を自称する連中も明言はできなかった。そもそも終局の訪れそのものを予知できなかった者達が何を言ったところで、ひたすら滑稽なだけの話ではあったが。
 神が降臨し、炎と雷で地上を浄化するのか。
 巨大怪獣が現れ、世界を破壊光線で薙ぎ払うのか。
 これまでにない致死の病が大流行し、人類は皆体を腐敗させながら死んでいくのか。
 突然一斉に心臓が停止し、呆気なく終わってしまうのか。
 わからなかった──予想することすら恐ろしかったのかもしれない。誰も深く考えを巡らせることはなく、口に出して議論することも少なかった。
 だが。
 どれだけ逃げ続けたところで、いずれ現実に追いつかれる。
 拓也はその日思い知ったし、きっと人類の誰もが思い知ったのだろう。
 今が終局なのだと。
 降り積もるこの雪こそが、世界を終わらせるたった一つの凶器なのだと、思い知った。
「……お終いだな」
 手に握る木の棒は、半ばほどで折れている。
 正確には折れているわけではなく、削られたと言った方が正しい。断面は歪だが恐ろしいほどに鋭利で、滑らかだった。
 発見したのはただの偶然だ──道路に、ぽつんと小さな穴が空いていた。
 穴から上に向かって、白い柱のように虚無が立ち上っていた──雪のように不安定な軌跡を描くその虚無は、触れれば雪も風も消し去り、視界さえ一筋の線として遮った。目に映る光景を白い絵の具で上書きしたような感覚に、拓也は我知らず独白していたのだ──お終いだな、と。
 そして、終わりは雪なのだと直感した。
 これは、雪が降った跡だ。
 終局の雪が降った形跡だ。
 試しに落ちていた枯れ枝でなぞってみた結果が、今手の中にある。
 今はまだ、降り注ぐ雪粒のうち、何千万分の一か──あるいは何億分の一か。そんな確率でしか、混じっていないのだろうが。
 いずれこれが世界を覆い尽くし、何もかもを消し去るのだろう。
 逃げることも、抗うこともできない終わり。
 白く塗り潰されて、滅んでいく。
「……痛くなければ、いいんだけどな」
 こんなに綺麗に滅んでいけるなら。
 最後ぐらい、痛みや苦しみとは無縁でいたかった。
 それすら傲慢だと罵られるのなら、拓也は喜んでどんな罵詈雑言でも受け容れただろう──それでも、もう十分だと反論するだろう。
 もう十分だ。
 痛みも苦しみも。
 辛さも悲しみも。
 静かに──ただ静かに、終わっていければいい。
「……後で、洋介さん達と、美雪には教えとくか……目印か何か残して」
 間違って、触れる人間がいないように。
 とりあえず、雪で囲いを作り、目立つようにして。
 拓也は、抑え込んでも溢れ出してくる感情に支配されたまま、ゆっくりと家路に就いた。
 ──お終いが。
 こんなに怖いだなんて──思って、いなかった。
 覚悟していたはずなのに。
 それでもまだ、はっきりとした滅びを目にすれば心が折れる。
 世界は未だ、優しくない。
 優しくないまま、きっと終わっていく。

 世界が滅びるその日まで、あと二十八日。

テーマ : 自作恋愛連載小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

神楽坂司

Author:神楽坂司
世界が終わる。
無慈悲に優しく、無造作に哀しく。
無意味に虚しく、無感動に冷たく。
世界は終わる。
終わりの中で初めて紡がれていく、優しくて哀しい人々の絆。避けられない終局を前にしたとき、彼らの選択はこの世界に何を残していけるのだろうか──?

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